諦め続ける薬

忘れることは、疲れに対する最高の薬。思い出に対する最悪の薬。

逃れられず、ずっと続く

 待合室に入った。
 数分の用を済ませて帰るつもりだったのだけれど、数百人が、数百の待合席に座り、整列したまま順番を待っている。新たに入った私を、数百かける二の瞳が刺し殺す。もしかしたらあの奥の扉にも同じように膨大な列ができているのかもしれない。
 すぐさまお手続することはできません。
 順番をお待ちください。
 ただし、お手続きが終わるまでここから出ることはできません。
 私は目を瞑り、どうなってしまったのかとふらつく。数百かける二の瞳が私をその場に押し留める。逃げることもできない、進むこともできない。
 そんな夢だった。

 意外と私は、単調な義務から逃れられないことに恐怖を抱いているらしい。
 シーシュポスの岩、というやつだ。岩を持ち上げては転がり落ちるのを見、持ち上げては転がり落ち。ああいうのを、昼間に想像するのはいいものの、夢に出てきたりすると飛び起きる。
 ずっと走り続けないと奈落の底へ、とかも。片山恭一/世界の中心で、愛を叫ぶにおける泳ぎ続けないと落ちていくというのもかなり印象に残っている。

 死ぬまでこれをやり続けるのか、ではなく、死んでも死ななくてもこれをやらされ続けるのか、という思考に変わる。その思考は侵食するように飲み込み、体だけがその行動を続ける。
 ずっと生き続けることに対する不安感は、そこに端を発しているのかもしれない。