軌跡シリーズ - 戦闘システムの変遷は何を減らし何を増やしたか
軌跡シリーズにおける戦闘システムの話。
一応ここでは空の軌跡FC/SC/the3rd/零の軌跡/碧の軌跡の話をあげている。那由多は戦闘ジャンルが違うし、閃はこれからだし。
これらのゲームの戦闘についていくつか書いているので、一つも情報を入れたくないという方は注意。特に碧の軌跡の二周目特典。ストーリーネタバレはなし。
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軌跡シリーズの戦闘システムの改善には注目すべき点がいくつもある。
空の軌跡FCでの骨組みだけでも十分ながら、そこからプレイヤーの要望に合わせ次々と変更が施された。その点をすべてあげるのは大変だ。
また、SC/the3rdにおけるチェインクラフト、零/碧におけるコンビクラフト、そしてオーブメント・オーバルアーツの変更など、新要素も多く取り入れられている。
まず、この変遷について軽く書く。
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ゲームシステムの変更、第一の理由は当然、利便性だ。
戦闘をよりスムーズに、ストレスフルに。それが基本の理念。
単純に、戦闘で煩雑な部分を取り除いた。
例を挙げよう。
アーツ(魔法)のエフェクトの長いものは、次作で短くなった(エアリアルなど)。
前作でメンバーの装備をいちいち変えるのが面倒な状態だったから、次作では自動で外せるようにした。
PC版では自動カーソル移動だったのが、零/碧ではPSPに合わせリング状メニューになった。
零碧になり、アーツやクラフト(固有技・必殺技)の演出はSTARTボタンでカットできるようになった。レベル差がある場合、エンカウント前攻撃で倒せるようになった。
ある意味、これらの変遷は、ボトルネックを取り除き続けた結果ともいえるだろう。
戦闘においては、必ず律速がある。
エンカウント。オープニング。カーソル合わせ。敵の選択。攻撃エフェクト。敵のムーブと攻撃。回復や移動。撃破。戦闘終了リザルト。これらのなかで最も時間のかかり、戦闘時間を決めている要素。それらを次々に変更していったのだ。
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戦闘システムの変更が必要だった、第二の理由。インフレ。
多くのゲームでその要素はある。雑魚敵よりもボスは強くなければいけない。話が進むごとにボスもキャラクタも強くならなければいけない。
どこかで、「レベルの存在によりプレイヤーが自分自身で難易度を操作できる」という文を読んだ記憶がある。レベルが設定されていることで、プレイヤーの操作スキルの差異をプレイヤー自身で調整してもらう。いくつかのゲームにおいて必要な部分といえる。ただそれにより、プレイヤーに調整してもらうために「敵の強さ設定の調整」は、ゲーム側が行うことになる。(注記:以降、「インフレ」という語句は「戦闘力の上昇」という意味で)
空の軌跡FCの例。
戦闘攻略法の一つに、状態異常がある。
敵を状態異常にしておいて倒すことは常套手段だ。
例えばアーツの一つ「カオスブランド」。敵一体を「混乱状態」にする。混乱状態になると同士討ちかふらふら移動以外の行動はとらなくなる。とりあえず敵にこれをかけておいて、あとはぼこぼこにする。
たいていの敵にはこれが効いた。中終盤で出てくる攻撃力の高い敵にも、これをかけることで幾分戦闘が楽になった。攻撃力が高いのはインフレによるものだが、このアーツひとつでその攻撃力は敵から味方へと変わった。
「あ、この敵強い。じゃあまずカオスブランドかけて、そこから……」
次作以降では、これに対し対策が取られた。
「耐性」。
状態異常無効を持つ敵が多くなったのである。たいていのボスには混乱耐性がついた。それだけではない。石化にも、一撃必殺にも、耐性がついた。当然の措置ともいえるし、それは情報取得のクオーツを装備しておくことでプレイヤー側も把握できた。
さあ、続編であるSC/the3rdのボスに、カーソルを合わせてみよう。情報を見ることができる。
敵が持つのは、耐性の山。
あの状態異常にはならない、その状態異常にもならない。
インフレの一つであることは当然として、これにより、プレイヤーの攻略方法も変わっていったのである。
さあさあ、さらにその次の作品、零の軌跡/碧の軌跡をみてみよう。敵情報ではなくアーツ一覧である。カオスブランドの項目。
『敵一体攻撃・確率10%で混乱する』
ついにアーツの効果が変えられたのだ。
補助魔法から攻撃魔法へと。
また、中ボスくらいにカーソルを合わせてみる。状態異常無効マークが二十近く並んでいる。
このため、プレイヤーは、状態異常中心の戦略をあきらめ、「状態異常になればラッキー、それよりも強さ」「属性弱点をさらに突く」「耐性を持っていないという弱点を狙う」などへと変化していったのである。
このように、簡単すぎる選択肢の排除は、いくつもの理由により、戦闘システムが行う。それはインフレのためであり、安易さの除去であり、攻略に頭をひねってもらうための対策である。
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次の話に入ろう。
このような、大きく二点に分けられる戦闘システムの変更により、何が起こったのか。
ボトルネックを取り除きつつ、エンカウント量は変えず、ゲームのボリュームをアップし、安易な選択肢を減らした、その結果、どうなったのか。
もうご理解いただいているかもしれない。
「戦闘行為自体が、ゲームにおいて律速になった」のである。
軌跡シリーズには、いくつものイベントがある。戦闘のみではない。メインクエスト、サブクエスト、街まわり、ダンジョン、謎解き、などなど。
その中で、戦闘の時間消費が、どんどん増えていった。
総プレイ時間における戦闘時間の割合。これが大きくなったのだ。
一応注記しておくと、零/碧においては、エンカウントの変更で戦闘時間短縮の動きがあった。レベル差が大きい時はフィールド攻撃で倒せる。それ以外の雑魚敵も、フィールド攻撃を背中から撃つことで怯ませ、先制攻撃状態にできる。いずれも短縮に一役買っている。
ただやはり、シリーズが進んでゲームのボリュームが増えた分、戦闘の煩雑さも増えたように思う。あの敵の多さ。ダンジョン攻略ですら、いくらか分かりやすい一本道が増えたのに、敵の量は依然として多く、エンカウント数0というわけにいかない。そしてレベル上げのためにも、戦闘が必要な割合、そして時間割合は大きくなった。
ボス戦。HPが上がった。固くなった。ほとんどの状態異常が無効になった。
戦闘インフレにおいては、「敵のHP上昇」も「防御力上昇」も同じ意味を持つ。
そしてインフレを起こした強大な敵を倒すには、「レベルを上げる」か「時間をかけて倒す」か「弱点を突き続ける」かに大別されるようになる。
前はここに状態異常云々もあったのだが、それは前述の通り、慎重に除去された。
結果、戦闘への歯ごたえが増えた。いいことだ。
事実、零/碧のプレイ中は、空の軌跡FCよりも緊張感がある。エンカウント方式の変更のためだ。
ただ、雑魚敵も「面倒な敵」へと変わったことで、いつまでも緊張感が残り続けるという道中になったのだった。
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いつまでも続く戦闘。ちょっとばかり、辛くなる時もある。
ボスにたどり着く前のダンジョン。これは、レベルを適正にあげてもらうための場所という一面を持つ。
ボスが固くなり、レベル上げが重要になった以上、このダンジョンも例外なく長くなった。
最たる例は、the3rd終盤における某ステージである。
非常階段のようにいつまでも降りていく一本道ダンジョン。四つの角に配置される敵。いつまでも終わらない。そして最下部での特殊な小ボス。経験値はどっさり入るが攻略が難しい。
なにせキャラクタ自身が「腕試しの場所だから、必須ではないが行ってみるのもいいのかもしれない」などと喋るようなステージである。
あの場所の攻略を繰り返せば、レベルは上がる。ボス戦は楽になる。ただ、「時間」以上に「ストレス」の方が増えるというのもまたありがちである。
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さて。この戦闘システム変遷の結末について書こう。
「戦闘」というものに対し、最終的にどのような解決が与えられたのか。
軌跡シリーズにおいてそれは、「葉隠」のクオーツ、そして「AUTO戦闘」である。
まず「葉隠」のクオーツ。
このアイテムは、空の軌跡の終盤や隠しで出てくる。これを装備すると、敵に接触しても戦闘にならない。これにより、「雑魚敵と戦ってレベルを上げるか」「進めるために敵を避けるか」を選択できるようにしたのである。
「AUTO戦闘」は、碧の軌跡二周目以降の実績ポイント解放機能。
これが出てきた時は、私自身さすがに吃驚した。ある種存在してはいけない機能であり、「あって欲しかった」ものであったからだ。
ゲーム終盤、雑魚敵を倒す楽な方法は、「攻撃」の連打である。敵のダメージは気にせず、ひたすら味方キャラクタに「攻撃」の指示を出す。これが簡易で、経験値もセピスも少し入る。ポケモンでもドラクエでも、こういった状況になる時がある。
何十回もこの攻撃連打をして、私は思ったのだ。半オートな戦闘機能があれば楽なのに、と。まさにそれの具現化である。危なくなったらSELECTで解除もできる。ボス戦では自分でキャラクタを操作すればよい。
ゲーム二周目以降も、この戦闘量ではさすがに飽きがくる。ただでさえこのシリーズは、ゲームが進むほど二周目以降の得点が増え続けてきた。
ボス戦はともかく雑魚戦は、この機能が非常に役に立つ。
ついに、戦闘システムは、戦闘という最後に残ったネックも、回避する術を用意したのだった。
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戦闘は華だ。そしてその華を維持するために、戦闘要素を持つゲームはどれもシステムを洗練させてきた。
そして短所を取り除くのは改善の基本。特に軌跡シリーズでは、その変化が分かりやすい。
そして少し思う。
戦闘は華。だけれど、これらの変化で、どう戦闘を楽しむのかというのも、変わりうる。
つまり、戦闘システムの変化は、楽しみの変化とも連携している気がする。
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※その他
この話に関連して、零/碧において街歩きの時間が非常に長くなる現象、通称「クロスベルマラソン」についても書こうと思ったけれど、焼き直しになるのでやめておく。
街が便利になり、装備等のシステムが改善され、徒歩以外の移動手段も準備。そうなると、「ころころ変わる街の人との会話」の時間割合が増えるのは当たり前のことなのだろう。その他の理由もあるけれど。