諦め続ける薬

忘れることは、疲れに対する最高の薬。思い出に対する最悪の薬。

感想 ― 米澤穂信/鏡には映らない

 野性時代掲載の米澤穂信/鏡には映らない感想。
 古典部短編では珍しい、通しての視点変更作。彼女の視点はそれこそあのイベント以来。
 個人的にはこの語り口が大好きで、あのイベントでの折木との会話が本当にツボだった。彼女からの視点だと折木の姿がまったく異なって見えるのだ。
 本作でもそれは健在。それに加え「一年経って改めて考えたときの認識の変化」がある。これは、二人の距離の概算であった折木の「賭け」の時のモノローグと似ている。「だから、違うと思った」のあれ。それが模索の原動力になっているあたり、二年生になった彼らの考えの推移のひとつとなっている。

 しかし、この認識の変化ほど大きいものはない。
 高校における彼女と折木の触れ合い、それこそ初登場時の図書館の掛け合いの状態すら、本編のこの事件が原因の一部なのだとすれば、このエピソードほど重要なものもないからだ。
 だからこそ、この時に彼女が追って明らかにしたものは、これ以降の彼女と折木の繋がりすら変わっていくかもしれない、ある種の転機すら含んでいるように感じる。ラストの話を見るに。
 当然、この事件がすべてではないだろうし、彼女と折木のこれからに変化がない可能性だってないわけではない。ただ、折木と千反田さんの一年による変化のように、どこか関わってきそうな気はする。

 付き合っている云々のところや、千反田さんがメインでないところがやはり面白い。赤面の理由やヒーローにしておきたいという部分が最初と読み返した時で変わって読めるのは、古典部短編でしっかり繰り返された構成。
 連峰は晴れているかに続き、二年生二編目。こうなると遠まわりする雛のような短編集化が楽しみでならない。


追:公式あらすじリンク(汎夢殿)
http://pandreamium.sblo.jp/article/57129308.html