諦め続ける薬

忘れることは、疲れに対する最高の薬。思い出に対する最悪の薬。

電話の声色

 いつもはさばさばした口調で話す上の人。
 電話を使っているのを聞いていると、すごくきつい声色でねちねちと話す。おそらくは身内の会話なのだろうけれど、その豹変ぶりに、近くの私たちは戸惑う。

 私ももしかしてあんな風なんだろうか、と話題を振ってみると、横の人は「だいたいの人は電話のとき声変わるでしょ」と。
 ふむ。言われてみると気にしてしまう。確かにあの人もあの人も。思い返してみれば母もだ。もしかして私もなのか、と身構えてしまう。当然、自分の声を第三者的に聞けないのだからどうしようもない。

 相手が身内でない人だと高くなったり大きくなったりすることは多いように思う。聞き取りやすさとかをより考慮した形。当然普段以上に丁寧な言葉遣い、というのもあるだろう。
 逆に、身内だと普段通りもしくはそれよりも低く、というのがあるのかもしれない。

 母がそうだ。「はいもしもし」までが高く、私だと言うことがわかると「ああ」と低く変わる。
 電話だと特にそれが強調されているのだろうか。

 上の人の電話が終わり、さっきよりも軽い声音で、「じゃ、お先」という。
 おつかれさまでしたー、という私の声が、上の人に、周りにどう聞こえているのかは、想像のしようがない。