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アニメ感想氷菓一話〜五話:致命的にならなければ

 氷菓の感想を書きたくて仕方がなかった。
 正直言ってここを作った理由の一つはそれである。
 もともと古典部は大好きなシリーズだ。前にもどこかで言ったと思うけれど、まだ書くのを始めていなかった頃に氷菓(シリーズ第一巻)を読んで「『もし私が本を出せると思ったらこういうものを』というのが具現化して本屋に置かれていた」と思ったくらい。どれだけ自意識過剰だとは思うけれど、それくらいストライクで、フィットしていた。読みすぎて表紙もボロボロになり始めたので二冊目を買おうと思う。アニメ版二重表紙の。あれはきちんと文集氷菓の表紙をビジュアル化していて素敵だと思う。
 本当は一話ごとの感想を書きたいけれど、ここを作ったのは一週間前。そんなわけでとりあえず一話から五話まで、すなわち氷菓(シリーズ一巻)編の感想と、「アニメ版表現の致命的になりかねない部分」について書こうと思う。本命は後者。

 まず、アニメ版に関して、「よくぞ映像化してくれた!」という部分はあまりに大きい。
 古典部シリーズ、ひいては米沢穂信作品において、文章が紡いだ脳内映像の確固とした感じ。それらは大きい。まるで読者内で共有されているのではないかと思うほどだ。例えば、千反田さんのビジュアル想像は読者間でそれほど大きな差がないのではないんじゃないか、なんて思う。
 アニメ版はそれらをしっかり包みつつ、舞台の雰囲気や細かな表情変化に素晴らしく気を配っている。図星な時のキャラクタの驚き、推理に必要な手掛かりの提示、背景の細やかさ。
 映像化というのは素晴らしい。文集表紙はビジュアル化され、それを用いたことで、真相シーンにおける比喩としておどろおどろしい効果を上げた。
 まあ、アニメ化に関して変更せざるを得ないところはあるものの、しっかりしているように感じた。
 一部分では、そぎ落としたところが大きいと感じることもままある。例を挙げると、四話の話し合いシーン。手掛かりとなる文章群はたしかに映像化しにくいからああなるのも分かるけれど、「一話から三話に出てきたものから彼らがそれぞれ手掛かりとなりそうな文章を見つけ持ち寄っている」というのをもう少し示してもらえると、なんて思ったりする。一話から三話までのがしっかりつながっていることは重要じゃないか、という。ただしこれは当然、致命的な部分ではない。
 そう、致命的。作品の別媒体への発展においてはそこが重要視される。変更・削減・追加。それらに致命的なものや矛盾が存在すると、違和感を覚えざるをえなくなる。難しい問題だ。
 氷菓アニメ化においてもその問題は避けにくそうである。ただ、致命的である部分は少ない。先述した手がかりも推理シーンへの打撃は小さいだろう。
 それを言ってしまえば、折木は面倒くさがりというより手短にというのだけれどそれがずれているだとか、ふくちゃんは空回り要員ではないだとか、遠垣内先輩過剰すぎるだろとか、その辺が致命的になることはないだろうと思うのだ。ただの、個人的な違和感で済む。

 ここまで置いて、本題。ちょっとネタバレあるかも。
 ちょっと不安になったのは、『千反田さんの押しつけ』だ。
 致命的ではないだろうか、と。

 小説でもアニメ版でもわかる通り、千反田さん家のえる嬢は依頼人としての配置がある。謎から推理へとつなげる役割を担うことが多い。コンセプト、とまでは言い過ぎかもしれないけれど。
 ところで、原作シリーズ四巻短編集「遠回りする雛」を読んだ方は理解してくださるだろうけれど、『彼女は決して、無理を通してまで折木に推理を押し付けたりしない』。この辺は当然のちのエピソードのネタバレになりかねないので詳しい言及は避ける。
 この事実はシリーズにおいてかなり大きな前提だと思っている。
 たとえば短編集一篇目・アニメ一話後半の七不思議エピソードは、『彼女は決して推理を押し付けてこなかった』と『折木は危惧し、保留ということであのような行動をとった』という事実を明確にとっている。具体的エピソードの一例。
 
 それがアニメ版だと、かなり千反田さんが推理を押し付けているようにみえる。
 例えば、アニメ版二話の図書館エピソードでは、過剰に嫌がる折木と頼みまくる千反田さんのシーンが追加されている。原作では、これ以上拒否してもエネルギー効率が悪くなる、仕方ない考えてみるか、くらいの描写だった。
 あそこまで頼み込んでいるシーンに、正直違和感を覚えた。有り体に言うと、折木が嫌がるのも仕方がないようにみえる、と。

 そして、そのアニメ版の「押しつけ」と短編集の某エピソードにおける「決して押し付けたりしない」という間に矛盾が出るのだ。不安になったところはそこ。
 第何話になるか分からないけれど、あのエピソードは削れないだろう。それでなくとも、短編集エピソードをしっかりと作中時系列に沿って再配置した構成である。そうするといつかあの「押しつけ」が、別のエピソードにも響いてくるのではないか、そうなったら致命的ではないか、と。

 千反田さんの好奇心の発露や、折木による徐々に進む彼女の理解などの描写は素晴らしい。
 そしてその分。
 あの要素が、致命的にならなければいい。のちのエピソードで、アニメ版はその点にどうフォローを入れていくのか。毎週楽しみに視聴しつつ、そこを気に留めていきたい。